人間力

プロジェクトマネジメントシンポジウム2005にて、田坂広志氏*1による基調講演『なぜ知識社会では「人間力」が求められるのか?−「専門的な知識」から「職業的な知恵」へ−』を聞いた。そこでのテーマは「人間力」。
印象に残った部分は次の通りである。

  • 知識社会では、単なる「専門的知識」が価値を失う
    • 「専門的な知識」ではなく、「職業的な”知恵”」が重要!
  • 「職業的な知恵」とは?
    1. 技術:スキル、センス、テクニック、ノウハウ(ここでは、「技術」とは工業的な技術(Technology)のみを意味しない)
    2. 心得:マインド、ハート、スピリット、パーソナリティ

  技術の奥にあるべき「心得」「心構え」「心の姿勢」の大切さ。
  すぐれた「技術」の奥には優れた「人間力」がある。

  • 知識社会で活躍するのは「職業的な知恵」を身につけた「知的プロフェッショナル」
    • 「知識の勉強法」よりも「知恵の習得法」が大切になる。
    • いかにしてその「職業的な知恵」を身につけるか?
    • 「専門的な知識」は「書物」や「学校」で学べるが、「職業的な知恵」は「経験」と「人間」からしか学べない。
  • 「知恵の習得法」とは?
    1. 反省:懺悔や後悔とは違う。成長の道具。
    2. 感得:過去に「知識」として学んだことを「気づき」を通じて「知恵」に昇華する。
    3. 私淑:謙虚な姿勢。「謙虚」とは「卑屈」とは異なる。
    4. 傾聴:優れた先達の「言葉」に深く耳を傾け、言葉の奥からその「心得」を学ぶ。
  • 「反省」について
    • 1つの「経験」から学んだことを徹底的に言語化し、それを「体験」にまで高める。
    • 『ことばに表すと、ことばに表せないものが見えてくる・・・』
    • 「反省」により、個人が成長し、組織も成長する。
    • KMは「知識のマネジメント」というよりも「心のマネジメント」である。
  • 「感得」について
    • 心が動かないと「知恵」はつかない! 単なる「知識」で終わってしまう。
    • 情報共有や知識共有だけでは、何も起こらない。→「情報共鳴」と「知識共鳴」。心で共鳴しないと、感動しないとモノにならない。
    • たいへんな時こそ知恵がつく→真剣になっているから。本気になっているから。心が動いているから。
    • 人間力」そのものが本当の知恵といえるのではないか・・・

この中で特に心に響いたことが3つある。
1つ目は、『「技術」のみではなく「心得」が重要である』という部分だ。やはり人間が絡んでくる世界ではここでいう「心得」なくしてやっていけないというのはその通りだと思う。

  • 約束を守る
  • 仕事をしてくれる人を思いやる
  • 「やってもらって当然」なのではなく、「やってもらってありがとう」と感謝する

といったような、人間として基本的なことがまさに重要なのである。普段から心がけてはいるが、ついついおろそかになりがちなことでもある。
2つ目は、『「反省」が個人と組織を成長させる』という部分である。やはり、結果を謙虚な気持ちで振り返り、フィードバックして次に活かすというやり方、姿勢が大切である。「結果」は多くの教訓を示してくれているにもかかわらず、それを受け止める謙虚な気持ちがないとせっかくのチャンス(成功するチャンス、失敗を未然に防ぐチャンス)を失ってしまうのだ。
3つ目は『我々は、「言葉」にて語り得るものを語り尽くしたとき、「言葉」にて語り得ないものを知ることがあるだろう・・・』である。氏によればこれは科学哲学者であるヴィトゲンシュタインのことばとのことである。自分でもよく、「あれもやらねばならないし、これもやらねばならないし・・・」という、半ばパニック状態、ネガティブな精神状態になることが多いが、そういうときにコピーの裏紙に鉛筆で「やらねばならないこと」を整理してみる。そうすると、優先順位や手順、本当に重要なことがよく見えてくる。なるほどね、と思った。また、KMのプレゼンやセミナーをやっていると、「うちは書く文化がないから、形式知は蓄積されないんだよ」とおっしゃるお客様がよくいる。「これは胸を張っていうことではないのではないか・・・」とかねてから思っていたが、これで哲学的な裏づけがとれた。「書いてこそ知恵が出るし、より深い領域に到達できるのです。」と自信を持って諭してあげようと思う。
田坂氏の講演を聞いた後、氏の本を2冊購入して読んだ。どちらも今回の講演のテーマとなっている「人間力」が根底にあり、非常におもしろかった。後日書評を書いてみようと思う。現在さらに1冊を注文中である。2週間経つがまだ入荷しないが、届いたら早速読んでみよう。
最近は、この「人間力」にはまりつつある自分が楽しい。

*1:シンクタンク・ソフィアバンク代表、多摩大学大学院教授